● “脱中国”を急ぐインドの戦略
インドにはインドなりの戦略があった。もともとインドには「メーク・イン・インディア」というスローガンに代表される独自の戦略がある。インドは、いずれ中国に取って代わるインド中心のグローバルなサプライチェーンの確立を構想しており、ここ数年、日本、米国、豪州そして台湾を巻き込んで、“脱中国”の産業構造の確立を推し進めてきた。
“脱中国”の布石は、コロナ禍でも打たれてきた。今年4月、インドは外資による投資規制のハードルを上げ、中国企業のインド市場の参入を阻止しようとした。インドでは中国製スマートフォンの市場席巻はすさまじく、また中国企業によるハイテク分野のインド企業買収も進んでいたからだ。
また、モディ政権は5月に、コロナ禍にある国難を救済するための新たな政策「Atmanirbhar Bharat Abhiyaan(自立したインド)」を打ち出した。これには、「インドをグローバル経済における重要な部分にする」という意味が込められている。インドの独立記念日にあたる8月15日、モディ首相は「現在、世界中の多くの企業が、インドをサプライチェーンのハブとみなしている。私たちは、世界のためのものづくりを進めていかなければならない」と呼びかけた。
インド政府のホームページには「インドの自立(self-reliant)は自己中心的(self-centred)なシステムを支持しない、そこには全世界の幸福、協力、平和への関心がある」と、あたかも中国にあてつけるかのような一文もあり、インドの中国への強い対抗意識が見て取れる。
こうしたかたくななインドに対し、中国は「RCEPを離脱したインドは、グローバル化のプロセスに統合する機会を失った」と冷ややかだ。中国は積極的なグローバル化のもと、外国資本と技術を導入するという改革開放政策を採ってきたが、「インドにはそれができない」と批判する中国の研究者や評論家も少なくない。
● “インドの夢”を日米豪がサポート
一方で、中国が警戒する動きがある。日本とインド、豪州が中国の支配力に対抗するため、より強力なサプライチェーンの構築を模索していることだ。
9月1日、日本の梶山弘志経済産業相、豪州のサイモン・バーミンガム貿易・観光・投資相、インドのピユシュ・ゴヤル商工相が参加するオンライン会議が行われ、「サプライチェーン強靱性に係る日豪印経済閣僚共同声明」が発表された。
この会議において3閣僚は、新型コロナ危機と最近の世界規模での経済的・技術的な変化を踏まえ、インド太平洋地域においてサプライチェーンを強靱化する必要性とポテンシャルを強調し、地域的協力における緊急的必要性と、協力を通じて新たなイニシアチブの立ち上げに取り組む意思を共有した。
日本、インド、豪州といえば、米国を加えたインド太平洋の安全保障メカニズム「日米豪印4カ国戦略対話」の参加国である。この“4カ国メカニズム”は政治、外交、安全保障のみならず、インド太平洋地域における経済協力や貿易、さらにはサプライチェーンの構築にまで影響をもたらしているようだ。
インド太平洋地域におけるイニシアチブについて、インド紙「ヒンドゥスタン・タイムズ」は、「この動きは、地域全体における中国の積極的な行動が引き起こした緊張を背景にしたもので、製造と供給に大混乱をもたらしたコロナ危機の中で、日本によって議題に挙げられた」と伝えているが、むしろインドにとって日・豪は、インド中心のグローバルな製造・供給網を築きたいとする“インドの夢”の戦略的なパートナーとも捉えられる。
中国は、インド抜きのRCEPを歓迎する一方、インド太平洋地域に出現しようとする、この“インドの夢”と第2の「世界の工場」の動きを注視している。
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