東京五輪の近代五種女子の馬術で馬を殴ったドイツ代表チームのコーチ、キム・ライスナーが大会からの追放処分を受けた問題が、動物虐待問題として世界へ大きな波紋を広げている。事件が起きたのは6日。ドイツのアニカ・シュロイの騎乗した馬が障害の飛越を拒否した際にライスナーコーチが「馬を叩け」と指示し、コーチが自らの拳で一度、殴っている様子が映像によって記録されていた。騎乗したシュロイも殴ったが、戸惑い涙を流していた。国際近代五種連合(UIPM)は7日に映像で確認したところ「拳で馬を殴っているように見える」と判断され、ルール違反であるとして追放処分を下した。
海外メディアは、この問題を一斉に伝えた。
米CNNは、「シュロイが一緒にジャンプすることになっていた馬のセイントボーイのコントロールに苦戦している様子が見られた。ライスナーがシュロイを助けようとしていたときに事件は起こった」と馬の殴打問題を伝えている。
記事では近代五種の競技ルールについても説明されており「選手は、抽選で選ばれた馬を与えられ、競技が始まる前に、馬との絆を作るために20分だけ時間が与えられる」という。
追放処分を受けたライスナーのコメントも引用され、「私は叩けと言いました。しかし、それは決して馬を傷つけるものではありません。鞭で叩くことは拷問とはみなされていない。馬の口が裂けてはいないし、鋭いもので刺したわけではない」と弁解している。
またシュロイは、「私は(殴ることを)試してみたが、馬が行きたがらなかった。それで泣いてしまった」と話したという。
米スポーツ専門局ESPNは、「シュロイと馬のセイントボーイは理解を深めることができなかった。馬はコースをゆっくり走ってジャンプを拒否した。金メダルの望みが絶たれたシュロイは、明らかに動揺していた。ライスナーはシュロイに馬をコントロールするために、『本気で殴れ』と言っており、それは聞き取ることができ、馬の後ろ足の上を殴っているのも目撃された」と報じた。
英ガーディアン紙は、ドイツの近代五種連合が、馬のセイントボーイが以前に騎乗した選手の影響を受けていたと主張していることを伝えている。
「セイントボーイはロシア選手のジャンプを拒否しており、ドイツの近代五種連合によるとシュロイのラウンドの前から前の選手の影響でトラウマになっていた」としている。
同紙は「その後、ソーシャルメディア上ではシュロイとライスナーの馬への接し方についての懸念を示す声が相次いだ」と伝えたが、実際、SNS上では、馬への虐待行為をしたライスナーだけでなくシュロイにも厳しい批判が浴びせられた。
「コーチのライスナーはシュロイに『馬を本気で殴れ』と言ったことにも罰を受けるべきだ。そして、それを聞いて殴ったシュロイも恥ずかしい。コーチはただ追放されるだけでは不十分だ」
「馬を殴っておいて追放処分とは呆れた話で、このコーチは二度と動物に近づかせるべきではない」
「自分のチームを良くするために馬を殴らなければいけないのなら、オリンピックに出るべきではない」などの厳しい声が海外のSNSに投稿されている。
また競技そのものを批判する意見まであった。
「近代五種に強い疑問を感じる。適当に選んだ馬との絆を深める時間はわずかしかなく、選手は馬を道具としか見なくなり、そして馬を酷使するようになる」
「動物をスポーツや娯楽のために利用してはならない。単純なことだ」
SNSが大炎上する騒ぎになったため、ついにはドイツオリンピックスポーツ連盟が声明を出し、馬が抽選で割り当てられるという現状の規則の変更を求めている。
国際大会をレポートするサイトのインサイド・ザ・ゲームズによると、ドイツオリンピックスポーツ連盟は、「馬と騎手の組み合わせに対する過剰な要求は、緊急にルールを変更する理由になる。馬と騎手を守るために(ルールを)再構築する必要がある。動物の福祉と選手の公正な競技を重視しなければいけない」と訴えたという。
また前出の英ガーディアン紙によるとコーチと選手に対するSNS上の批判に対し、ドイツのアスリート支援グループは「ソーシャルメディア上でシュロイに向けられた一部の露骨な憎悪を批判し、動物保護と選手の適切な競技条件を確保するためにルールの変更を検討すべきだ」という声明を発表している。
この問題は、コーチの追放処分だけで終わりそうもなく、動物とともに戦う競技の根幹にかかわる問題までをも突き付けられている。
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